この記事の要点
- 見えたことを、一つ伝える: 「青をたくさん使ったんだね」「ここに窓があるね」。気づいたところから話せます。
- 話したそうなら、本人の話を聞く: 「どこを見てほしい?」と聞いても、一緒に眺めるだけでも。作品の説明を毎回求める必要はありません。
- 「すごい」を禁止しなくていい: 喜びが出たひと言を、言い直す義務はありません。表現に迷ったときの選択肢を、少し増やしてみましょう。
目次
「見て、できた!」
子どもが持ってきた絵や工作に、「すごいね」「上手だね」。うれしくて、自然に出る言葉です。一方で、いつも同じ返事になってしまう、何を描いたのか分からなくて困る、ということもあります。
気の利いた褒め言葉を、毎回用意しなくても大丈夫です。まず作品を見て、気づいたことを一つ伝える。話したそうなら、子どもの話を聞く。出来栄えを評価するほかにも、一緒に作品を楽しむ返し方があります。
この記事では、主に未就学の子どもが絵や工作を見せてくれた場面を考えます。紹介する日本語の声かけは家庭向けの例で、それぞれの言い方の効果を実験で確かめたものではありません。
何を褒めよう、と考える前に一緒に見る
「よくできたところ」を探そうとすると、上手な線、きれいな色、見本に似ているか、といった点に目が向くかもしれません。でも、そこから離れた話し方もできます。
「赤い丸がいっぱいあるね」 「この箱、ふたが開くんだ」 「ここに小さな窓があるね」

見えていることを言葉にしてみる。自分が好きだと思ったなら、「この色の組み合わせ、私は好きだな」と感想を伝えることもできます。何でも立派な作品として褒め上げる必要はありません。
日本の幼稚園教育要領でも、子どもなりの表現を受け止め、表現する過程や楽しさを大切にする考え方が示されています。完成した形だけでなく、作ったり描いたりしているところにも目を向けられます。公的資料
「何を描いたの?」の前に、話したいことを聞いてみる
何の絵か分からないときは、無理に当てなくて構いません。「犬かな?」と当てにいく代わりに、「この絵のこと、聞かせてくれる?」と誘う方法もあります。
話し始めたら、その話に合わせて返す。「ここは秘密の部屋なんだね」「この人はこれから出かけるんだ」。大人が想像した名前や設定を決めるより、本人の話に付き合ってみます。
ただし、どの絵にも分かりやすい物語や理由があるとは限りません。「何でもない」と言ったり、もう別のことを始めたりしたら、説明を続けてもらわなくて大丈夫です。質問は、作品を受け取るための必須手順ではありません。
言葉で話すより、指さして見せたい子もいるでしょう。その場所を一緒に見たり、うなずいたりする返し方も選べます。
返事に迷ったときの、三つの入り口
どれも、上手にできた作品だけに使う言葉ではありません。目の前に見えること、実際に見ていたことから選んでください。
毎回この三つを使う必要はありません。「見せてくれてうれしいな」で終わる日も、自分も描きたくなって隣に座る日もあっていいでしょう。
「すごい」「上手」と言ったら、言い直したほうがいい?
このあと紹介する研究だけを根拠に、「すごい」を禁句にする必要はありません。研究で比べられた褒め方は、それぞれ具体的な条件で使われたものです。日本語の「すごいね」というひと言を、どの場面でも避けるべきだと確かめた研究ではありません。
自然に出た喜びを取り消したり、子どもを呼び戻して正しい言い方に直したりすることを、この記事は勧めません。もし言葉の選択肢を増やしたければ、「すごいね。ここ、開くんだ」と、そのとき気づいたことを添えてみる方法があります。
また、「結果ではなく努力を褒めなければ」と、新しい義務に置き換えなくても大丈夫です。見ていない過程を褒めるより、今見えているものに関心を向ける、という選び方もできます。
忙しくて、今すぐ見られないときは
料理中や仕事中に、すぐ作品を受け取れないこともあります。そういうときは、見ていないまま詳しく褒めようとせず、今の状況を伝える方法もあります。
「見せに来てくれたんだね。今は手が離せないから、ここに置いておいてくれる?」
あとで見られそうなら、「これが終わったら見たいな」と伝える。時間の見通しが立たないときは、無理な約束をしなくて構いません。余力が戻ったときに「さっきの、見せてもらってもいい?」と話を戻すこともできます。
毎回長い感想を返せなくても、言葉を完璧に選べなくても。作品を一緒に見る時間を、その日にできる形で持てたらよいのではないでしょうか。
背景にある研究と、そこからは言えないこと
褒め方についての研究は、言葉選びの手がかりになります。ただし、ここで挙げる二つの研究は、日本の家庭で使う「正しいひと言」を決めたものではありません。
人形の描画場面を使った、小さな実験
Cimpianらの2007年の研究では、4〜5歳の子ども24人が、人形でお絵描きの場面を演じました。実際に絵を描いたわけではありません。
大まかに訳すと「あなたは絵が上手な人だね」という、その人の特徴として伝える褒め方と、「今の絵を上手に描いたね」という、その回の行為について伝える褒め方を比べました。その後、描き間違いを指摘される場面について質問すると、前者の群では、自己評価や再挑戦の意向などをまとめた指標で消極的な反応が多く見られました。研究1
これは少人数の短期実験で、実際に絵を描き続ける行動や、何年も先の意欲を測ったものではありません。英語の言い方の違いを、そのまま日本語の禁止表現に置き換えることもできません。
家庭での褒め方と、数年後の考え方を調べた研究
Gundersonらの2013年の研究では、米国シカゴ地域の53親子について、子どもが1〜3歳ごろの日常会話を録画し、後年の考え方との関連を調べています。
褒め言葉のうち、行為や工夫などに触れるものの割合は、7〜8歳期に測った、能力の変化や挑戦などへの考え方をまとめた指標と関連していました。ただし、褒め方を割り当てた実験ではなく、家庭を観察した研究です。褒め方が原因かどうかは、この研究だけでは分かりません。研究2
また、この研究では、能力や人物全体を褒める割合との、予測されていた関連は確認されませんでした。一般的な肯定の言葉も別の分類です。二つの研究を一括りにして、「上手と褒めると意欲が下がる」とは結論できません。
家庭の会話に取り入れるなら
研究を参考に、子どもが実際にしたことにも目を向けてみる。その一方で、一回の返事で将来が決まるようには考えない。この記事の具体例は、そのための編集部の提案です。
言葉を選ぶことに気を取られすぎず、目の前の作品と、見せに来た子どもに関心を向ける。まずは気づいたことを一つ、口にしてみませんか。
参考文献・資料
参考資料へのリンクは別タブで開きます。
- Cimpian, A., Arce, H.-M. C., Markman, E. M., & Dweck, C. S.(2007). Subtle Linguistic Cues Affect Children’s Motivation. Psychological Science, 18(4), 314–316. 無料全文・研究室公開PDF / DOI
- Gunderson, E. A., et al.(2013). Parent Praise to 1- to 3-Year-Olds Predicts Children’s Motivational Frameworks 5 Years Later. Child Development, 84(5), 1526–1541. 無料全文・著者研究室公開PDF / DOI
- 文部科学省(2017). 『幼稚園教育要領』第2章「表現」、冊子17〜18ページ(PDF20〜21ページ目). 公式PDF
資料確認日:2026年10月13日









