この記事の要点
- 知っていることでも、まず子どものやり方を見る: 「どうするの?」と聞き、説明や実演を受け取れます。すぐに大人の正解へ直す必要のない遊びもあります。
- 言葉で伝わりにくければ、やって見せてもらう: 「ここの折り方を、もう一度見せて」と、分からない部分を具体的に聞けます。説明の上手さを試験にしません。
- 教える役を、毎回の務めにしない: 途中で遊びたいほうへ戻っても、教えたくない日があってもかまいません。きょうだいの世話まで引き受けさせる必要はありません。
目次
園で覚えた折り方や、いつもの遊びのルールを、「教えてあげる」と子どもが話し始める。親は知っているやり方でも、どこまで知らないふりをすればよいのか、説明の間違いを直したほうがよいのか、迷うことがあります。
知らないふりを大げさに演じなくても、子どもがどんな手順で進め、何を大事にしているかは、その子から聞けることです。「私も作ったことがあるけれど、どんな作り方か見せて」と、実際に知りたいところから入れます。
子どもが大人や友だちに教える姿は、国内の園の観察研究でも記録されています。ただし、親に説明させれば能力が伸びると確かめた研究ではありません。ここでは、子どもから始まったやり取りを楽しむ方法を考えます。
「知ってるよ」の前に、その子の手順を見てみる
「ここを折るの」「先にこのカードを並べるんだよ」。教え始めたら、まずは本人が指している物や動きを見ます。大人が知っている手順と違っていても、その遊びで困らないなら、すぐに取り替えず、どこへ進むか見てみる余地があります。
「ここまで、こうで合ってる?」と、自分の手元を見せながら聞くこともできます。相手の説明を全部先取りして完成させるより、一つずつ確かめるほうが、その子の教えたい部分を聞きやすいかもしれません。
ただし、わざと何度も失敗して、教え直す練習にする必要はありません。子どもが困っているのに「先生なんだから最後まで」と続けさせると、遊びから離れてしまいます。楽しそうか、別のことをしたそうかも見ながら進めます。
ここからの声かけは、編集部による家庭での例です。研究で学習効果を確かめた指導法ではなく、子どもが伝えようとしたことを受け取るための選択肢です。
言葉だけで分からなければ、手を動かして見せてもらう
「こうして、こう」と言われても、折る向きが分からない。そんなときは、「最初のところを、もう一度見せて」と具体的に頼めます。「ちゃんと説明して」と言葉だけの説明を求めなくてもよいでしょう。
子どもが自分の紙で折る、大人の紙の端を指す、できた形を見せる。いろいろな方法でやり取りできます。説明の途中で大人の紙を全部仕上げてしまうなら、「ここまでは分かったから、次は自分でやってみるね」と伝えてもかまいません。

説明が行き違ったときは、教える力を採点するより、「どこが同じで、どこが違う?」と手元の物を並べてみます。どうしてもうまくいかなければ、「今日は一緒に作ることにしよう」と、教える人・教わる人という役割を解いてもよいのです。
年齢や言葉の得意さだけで、教えることが好きかどうかは決まりません。人前で長く話さなくても、指さしや一つの動作から伝わることがあります。この場面を、発表の練習に仕立てる必要はありません。
遊びの工夫と、確かめたい事実を分ける
積み木の家の作り方には、本人なりの手順があってよいでしょう。一方で、虫の名前など事実についての説明が違うと思ったら、「私は別の名前だと思っていた。本で一緒に見てみる?」と確かめる方法があります。
子どもが先生役だからといって、すべてを正しいと言う必要はありません。「教えてくれてありがとう」と伝えることと、内容を確認することは両方できます。親自身が分からない場合も、そのまま伝えて構いません。
危ない道具の使い方や、相手が嫌がる遊び方は、大人が止めます。「教える役」を尊重することは、安全やほかの人の気持ちを子どもだけに任せることではありません。
国内の園では、説明や実演など、いろいろな教え方が見られた
王・外山が2025年に発表した研究では、東京都内の保育園で、3〜5歳児が他者に教える場面を観察しました。第一著者が保育補助として約7か月、週1回の計26日間参加し、主に担当クラス27人の生活を記録しています。ほかのクラスの子どもが関わった事例も含まれます。原著の方法・結果
分析された教示の事例は107件で、一度でも教える側として記録された子どもは26人でした。教える内容には、知っている情報、遊びや作業の手順、生活のルールがあり、言葉で説明するだけでなく、実際に見せるといった方法も使われていました。
教える相手は子どもに限らず、大人の場合もありました。また、相手の名前を呼ぶ、物を指すなど、注意を向けてもらう働きかけも記録されています。
身近な生活の中で、子どもは教わるだけでなく、自分が知っていることを伝える側にもなる。その姿を具体的に記録した研究と読むことができます。
教えさせるほど伸びる、と分かったわけではない
研究は一つの園での参与観察で、映像は撮影していません。記録する場面の選び方や観察者の解釈が影響した可能性があり、教える場面が見られなかった子に、教える力がないとはいえません。
異年齢の子どもが一緒に過ごす園の環境も、やり取りに関係した可能性があります。親に教える回数を増やす実験や、説明する前後の学力を測る研究ではありません。
家庭で、毎日先生役の時間を用意する必要はありません。上の子が教えることを楽しんでいても、下の子の学習や安全を任せ切らず、大人が関わります。教えられる側にも、一人で試したいときがあるでしょう。
「教えてあげる」と声がかかったときに、少し聞く側へ回ってみる。忙しければ「今は手が離せないから、このあと一つ見せて」と、できる範囲を伝える。親子の余力の中で、その子の知っている世界に触れる時間にできれば十分です。
参考文献
- 王淳・外山紀子(2025)園生活における幼児の教示:自然観察に基づく検討. 認知心理学研究, 23(1), 29–44. DOI: 10.5265/jcogpsy.2416.
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